君をひたすら傷つけて
「篠崎さんの専属スタイリストなんて務まるのかしら?」

「雅のセンスの良さは俺も知っているが、何よりも海が望んだからだよ。雅には申し訳ないが、もしも海が望まなかったら、雅を海のスタイリストにはしない。海に関する仕事のことで知り合いというだけでは妥協して依頼したりはしないよ。海が望まないなら雅に依頼はしない。でも、まあ、事務所の他のタレントは紹介したかもしれないけど」

「篠崎さんは特別なんだね」

「そうだな。育てたいと思う反面、どこまで伸びていくのか楽しみだよ。雅に言ったら笑われるかもしれないが、義哉を失って自分の中にぽっかりと空いた穴を埋めてくれたのが海だった。海の存在で救われたんだ」

 私以上にずっと義哉のことを見守ってきたお兄ちゃんの苦しみは計り知れない。義哉のために比較的自由に動ける職業で、医療費を稼ぐことの出来る職業に就き、自分の全てを注いだ十数年だったのに、結局は失ってしまった。私以上の苦しみは間違いない。

「そんなに大事な篠崎さんの仕事は断れないわ。エマに確認を取らないといけないと思うけど、頑張る。篠崎さんの輝きが少しでも増すように。でも、彼なら、小道具なんかなしにでも自分で輝きそうだけど」

「でも、裸でカメラの前に出すわけにはいかないし」

「エマが喜ぶわ」

「俺は雅と一緒に仕事出来るのが嬉しい」

 今まではお兄ちゃんに頼ってばかりの私だったけど、これからは少しでも役に立てるかもしれない。そう思うと、少しだけ前に足が出せるような気がした。
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