君をひたすら傷つけて
 篠崎さんのスタイリストとなって私の生活は一変した。篠崎さんが忙しくなればなるほど私の仕事も増える。最初は私服にコーディネートだけだったのに、雑誌の撮影、ドラマの撮影と私の仕事の幅は広がっていた。俳優である篠崎海が希望するスタイリストというのはそれだけで仕事になる。きっと、お兄ちゃんの知り合いである私のことをどうにかしようという思いがあったとは思う。でも、その目の前に示された幸運を私は受けることにした。

 その幸運を自分のものにし、コネでこの仕事を自分のものにしたと思われないように努力するだけだった。

 スタイリストとしてのプライドがないわけではない。

 でも、篠崎海という人間に私は惹かれ、この輝きをもっと磨きたいと思っていた。本当にそれだけだった。リズに言われたこと、エマに言われたこと。そのどれもが私の身体の中に息づいている。そして、私は今、この目の前にいる一生懸命に輝く人を支えたいと思う。それは私の横で私よりも熱い視線を送る人も同じだろう。

「お疲れ様。雅はこの後、事務所に戻るか?」

「ううん。今日はもうマンションに戻るつもり。それにしても、カメラマンも気合が入っているわね」

「仕方ないよ。海はそういう男だから。あんなに人気があるのに、少しも驕ったところがない。仕事に一生懸命で、だから、誰よりも輝く。その輝きをもっと輝かせたい」

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