君をひたすら傷つけて
「飲みすぎだよ。さ、ゆっくりでいいから歩いて」

「もう、無理。あの人、私のグラスに並々と注いで、『俺の酒飲めるよな』って感じの圧迫があるんだもの』

「あのプロデューサーは本当に飲むのが好きだもんな。自分の酒量が並外れていることを微妙に分かっていないからな。雅、歩くのはゆっくりでいいから、水でも買ってこようか?それとも部屋に戻って先に横になった方がいいか?」

 フラフラと覚束なく歩く私を抱き寄せて、部屋まで運んでくれ、込み上げるもので苦しむ私をトイレに連れていき、背中をさすってくれる。そんな優しさに甘えた。胸の温もりは私をホッとさせる。それが気持ちよかった。

「ふわって感じがする」

「飲みすぎだからな」

「この撮影が始まる時に少しでもいい形で入りたいと思ったの」

「そんなに強くもないのに、飲むからだよ」

「だって、今回の台本の厚さを見ると、篠崎さんだとしても結構撮影に時間が掛かると思う。そんな中で私が出来ることなんて少しだし、いい雰囲気で撮影に入りたいから、それに話していると本当に作品に掛ける思いも感じたし……」

「雅らしいとは思うけど、あのプロデューサーは飲むのが好きだから、これからもこういう飲みはあるから、自分でセーブしないと」

 酔う度に甘えることが増え、たまにおどけたように手を伸ばすと、ふわっと抱き寄せてくれる。それが気持ちよかった。篠崎さんが有名になり、いい仕事をすればするほど、私はお兄ちゃんと一緒に仕事をする時間が増えていくばかりだったけど、本当に楽しいと思う時間だが過ぎていた。

 そして、急転直下の出来事が起きた。それは、篠崎さんの恋愛だった。
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