君をひたすら傷つけて
 篠崎海はモデル出身の俳優で恵まれた容姿と端正な顔を持った人だった。その上に、性格もいいときているから、現場でも好かれ、また、次の仕事になり、仕事をこなす度に新しいファンが増えていく。

 全ては彼に女性のファンが多過ぎて、ありがたくも困る存在になりつつあるということから始まっていた。テレビ局の出待ちはだけでなく、ストーカーのように追い回すファンの女の子たちが存在しだした。アイドルでもないのに、黄色い声援があちこちで木霊する。そんな女の子の波をかき分けてテレビ局の控室に入った篠崎さんは

「女性はなんであんなに強いのだろうか」

 私が篠崎さんの髪をセットしながら、鏡越しで合った視線は疲れたように彷徨った。そんな篠崎さんにお兄ちゃんはパソコンから視線を話さないまま、静かに言った。忙しいのか、それどころではないのか分からないけど、お兄ちゃんにしては珍しく冷たい声だった。

『彼女を作ればいい。演技の深みも出るだろうし、彼女でも出来れば『防護壁』くらいにはなるだろう』と。

 人気俳優のマネージャーとも思えない言葉だが、最大限の力を使っての防護も今でも蹴散らされてしまい、俳優である篠崎さんにも危険が及びそうになっていた。篠崎さんを守るために奔走しているお兄ちゃんは、篠崎さんと同様に疲れていた。

 そんな、女の子に疲れた彼が、休憩時間に行った先で、女の子をナンパしてきたのだった。
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