君をひたすら傷つけて
 里桜ちゃんは部屋の引っ越しが終わると一緒に食事をしてから、私は事務所に戻ることにした。本当なら私もマンションに戻ってゆっくりとしたいという気持ちもあったけど、水曜日から篠崎さんのロケにスタイリストとして参加することになっていたから、その為の準備が残っていた。

 今回は映画だから、既に衣装など決まったものが現地に持ち込まれている。でも、契約書などの事務が残っていた。マンションに帰ってもお兄ちゃんは居ない。里桜ちゃんと色々と話したせいか、妙に今日はマンションに帰りたくなかった。

 事務所にいたのはまりえだけだった。

「引っ越し終わったの?」

「うん。殆ど捨てるだけだったから、時間も思ったよりも掛からなかった」

「まあ、裏切られた男を思い出すような物は処分するに限るけど、普通は家具の全部を捨てるなんで中々出来ないでしょ。それだけ篠崎さんが前の男を彼女の意識の中から消したかったのかもしれないわね」

「家具は全部買ったし、服も靴もバッグも殆ど買いなおしたの」

「さすがというか、本気度が凄い」

「私もそう思う」

「でも、雅も同じようなものでしょ。今は高取さんのマンションに一緒に住んでいるし」

「私は空き巣が入ったから…仕方なく」

「それでも一緒でしょ。高取さんのマンションに一緒に住み、服とかもプレゼントされたことあるでしょ。程度は違っても、篠崎さんも高取さんもそんなに変わらないと思う」

「私は妹みたいなものだから。義哉の代わりだと思う。義哉にしてあげたいと思うことを私にしているだけ」
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