君をひたすら傷つけて
「ありがとうございます。雅さんがいてくれてよかったです」

「そう?それならよかった。私も里桜ちゃんと色々と話せてよかったと思うわ。篠崎くんが急に結婚するとかいうから驚いたけど、里桜ちゃんだから、結婚しようと思ったのでしょうね」

「あの…私と篠崎さんの結婚のことどう聞いてますか?」

「偽装結婚だと聞いているわ。同居でも同棲でもルームシェアでも何でも何でもいいけど、一緒に住むなら楽しんだ方がいいでしょ。篠崎くんは私のお墨付きよ。とっても優しいし真面目な人よ。だから、里桜ちゃんも安心して過ごしていいと思うわ」

 若手実力派俳優と言われる篠崎海が突然結婚すると言い出したと聞いた時、本気で驚いたし、それが偽装だというもの驚いた。でも、今日の篠崎さんを見ていて里桜ちゃん以外はみんな分かっていたと思う。

 篠崎さんは本気で里桜ちゃんと結婚するつもりでいるということ。
 心から愛していること。

「私もあの時出会えたのが篠崎さんで良かったと思います。あの時、自分の中で起きた出来事をどうしても受け止められなくて、自分が壊れそうでした。でも、今は少しだけ前向きになっています」

 眩しかった。真っすぐに自分の道を歩いていこうとする里桜ちゃんが眩しくて、少しだけ昔の自分を思い出した。

 ただ、ひたすらに義哉を愛した日々を……。

「人間には辛いことがあってもそれを乗り越えるだけの強さがあると思うの。でも、それは一人で乗り越えるよりも、一緒に乗り越えてくれる人がいたらもっと早く乗り越えられるわ」

 そう、私が一番辛くて苦しい時に……傍にお兄ちゃんが居てくれたように……。

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