君をひたすら傷つけて
 お兄ちゃんとの電話を切ってから、すぐに阿部くんの名刺を見て、アトリエに電話すると、出たのは若い女の人の声だった。

『アトリエ阿部でございます』

『藤堂雅と申します。阿部さんにドレスの件で用事があり電話をしたのですが』

『すみません。阿部は席を外しております』

『わかりました。また、後ほど、こちらから連絡させていただきます』

『電話があったことだけ伝えます。それでは失礼します』

 それだけ言うと電話は切れてしまった。でも、すぐに電話が掛かってきて、それは阿部くんからだった。席を外していたのに、帰ってきたのだろうか??

『阿部です。ごめん。電話貰ったって聞いたから』

『ちょっとお願いがあって電話したの。雅人に出来れば、知り合いのウェディングドレスを作って貰いたいの。期間は一か月しかないから、かなり無茶なお願いだとは思うけど』

『かなり厳しいな。いくつかのパターンがあるから、それを基本に作るセミオーダーならどうにかなるかもしれないけど。でも、雅の頼みなら、頑張ろうとは思う。で、誰のドレス??』

『篠崎海の奥さんのドレス』

『え??あ、うん。とりあえず電話で話す内容ではないから、今からアトリエの方に来れるか??』

『ええ。でも、篠崎海のマネージャーと一緒でもいい??』

『いや、それは困る。雅、一人で来てくれる??』

『分かった。じゃ、今からでもいい??』

『ああ、待っている。場所は分かるか??』

『ええ。じゃ、今から行くわ』
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