君をひたすら傷つけて

遠くに感じること

 神崎くんの食べっぷりは気持ちのいいものだった。男の子はよく食べるというのはわかっていたけど、私の周りにいた男の人は大人の男の人が多くて、神崎くんのように無邪気に食べる人は居なかった。最初のお肉はペロリと無くなり、追加のお肉も綺麗に消えていく。

 お兄ちゃんも篠崎さんもそんな様子を嬉しそうに見つめ、無くなりそうになると、追加の注文をしている。

「めっちゃ美味しいです。バイト代最高!!」

「それはよかった。神崎にも聞いて欲しいが、昨日、海と里桜さんで決めた内容をスケジュールに合わせて組み替えをしています。一部は里桜さんのご両親にお渡しください。すみません。こちらの都合に合わせて貰って申し訳ないと思っています」

 お兄ちゃんは自分のバッグから、里桜ちゃんに二つの袋を渡した。里桜ちゃんが袋からファイルを取り出すと、そこには殺人的なスケジュールが並んでいて、でも……最後の一日だけは真っ白の欄に『自由』とだけ書いてあった。

「書いてある通りです。入籍した日に海を無理やり仕事に連れ出しましたので、その代わりのオフです。私たちは里桜さんのご両親と一緒に先に日本に帰りますが、たった一日ですが、お二人で楽しんでください」

 お兄ちゃんはあの日の約束を守った。そのためにどれだけの労力を必要としたのかは見せないお兄ちゃんを私は誇りに思った。そして、資料を見ていた里桜ちゃんの瞳から綺麗な涙がポロリと零れ、頬を伝った。

「里桜ちゃんたら泣かないの。普通はもっと長く新婚旅行にいくのだから」

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