君をひたすら傷つけて
「別に人の私生活に何も言いませんが、普通、妙齢の男女が一緒に住んで何もないというのはあり得ないと思うんです。最初、空き巣に入ったから高取さんのマンションに居候することになったのは知っています。俺には高取さんも篠崎さんも変わらないように見えます」

 神崎くんの言うことは的が外れている。私がお兄ちゃんに甘えているだけで、溺愛されてはいない。溺愛というのは篠崎さんが里桜ちゃんに向けるようなものであって、私とは違う。

「違うわ。私はシェアハウスみたいな感じで、里桜ちゃんは新婚だし。私は高取さんの弟が好きだったの。だから、妹のようなものだと思う」

「それも知ってますよ。でも、それってもう十年近く前のことですよね。その間に二人の間に流れた時間はあったわけだし」

 お兄ちゃんと私の間に流れる時間は確かにあって…。でも……。

「さ、着きましたよ。先に入って注文しておきましょう。っていうか、後ろから来ちゃいましたね。一緒に入りましょうか」

 駐車場に入るとすぐにお兄ちゃんの運転する車が入ってきた。

 お兄ちゃんが予約して店は高級と言われる場所だった。私は以前にお兄ちゃんと一緒に接待の下見に来たことがある。驚くほど美味しいお肉の店だった。案内されたのは一番奥の部屋でドアを開けると、時間を見計らったように、新鮮なお肉を乗せた大皿がいくつも並んでいた。誰がこんなに食べるのだろうかとは思うけど、横にいる神崎くんの様子を見て合点がいった。

「すっげー。高取さん。これ全部いいの?」

「ああ、足りなかったら追加していい」
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