君をひたすら傷つけて
 ご両親と里桜ちゃんを見ていると、里桜ちゃんの芯の強さの中にある優しい穏やかさはこのお二人から受け継いだものだと分かった。自分の娘が俳優と結婚するだけでも躊躇するのかもしれないのに、電撃結婚の上に、イタリアでの挙式となると、普通は躊躇する。

 でも、二人とも里桜ちゃんの幸せを心から喜んでいた。

「イタリアには何度か行ってますので、何でもご希望があれば言ってくださいね。今回は結婚式がメインなので観光出来る時間も少ないですが、出来るだけ色々ご案内出来ればと思っています。少し時間もありますので、ラウンジの方に参りましょう」

「ラウンジですか?」

「今回のお席はファーストクラスですので、出発までラウンジでゆっくりしましょう」

 航空会社のラウンジはゆったりとした空間だった。私も流石にファーストクラスは初めてだったから、少しドキドキしていた。ファーストクラスを選んだ理由は、篠崎さんが里桜ちゃんのことを本当に大事に思っているからだろう。一緒にイタリアに行くことが出来ない分、少しでもゆったりと穏やかなフライトを楽しんでもらいたいとの思いだろう。

 四人でコーヒーと簡単な軽食を食べてから、これからのイタリアでの観光のことを話した。里桜ちゃんのお父さんよりもお母さんの方がイタリア旅行を楽しみにしていて、旅行雑誌には付箋が貼ってある。さすがに全部は行けないけど、出来るだけ時間のロスがないように回りたいと思った。

「イタリア全土は難しいですが、ローマとその近郊なら十分に時間あると思います。メインは結婚式ですけど、その前に疲れを残さない程度に楽しみましょう。さ、そろそろ搭乗が始まりますね。行きましょうか」
< 826 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop