君をひたすら傷つけて
 数日後にセンター試験を控えていた。私の成績はボーダーラインの少し上を行ったり来たりしている。塾で勉強してもなかなか過去問題を解いていても成績が上がっていると実感できない状況だった。特に数学が苦手で毎回足を引っ張っている。

「うん。大丈夫」

「よかった。ジュース飲む?」

「ううん。今はいい」

「じゃ、欲しくなったら言って。冷蔵庫の中に親が持ってきたジュースがあるから」

「ありがと」


 二月に入ると自由登校になる。高取くんとの残された時間はカウントダウンに入ったようなものだった。自由登校に入ると高取くんは退院するかもしれないけど他の場所に行ってしまう。

 私は自分の持っているバッグの中から紙袋を取り出して高取くんに差し出した。ずっとバッグに入れていたから少し紙袋はくしゃっとなってしまったけど、箱に入った中身は大丈夫。高取くんの倒れた日からずっと持っていたオルゴールだった。

「これは何?」

「オルゴール」

「オルゴール?」


「高取くんと一緒にショッピングセンターで見つけたオルゴールなの。高取くんのお兄さんに貰ったタクシー代が多かったのでそれでオルゴールを買ったの。お母さんの誕生日は終わったかもしれないけど」


「ありがとう。母も喜ぶよ。でも、お金足りたの?」

「うん。結構いっぱい貰ったから」

「それならよかった。兄さんには僕から払っておくよ。そうじゃないとプレゼントにならないからね」
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