君をひたすら傷つけて
 アルベールとの恋はアルベールのモデル引退と企業の後継者となることが決まった時に終わった。あの時の私はスタイリストという仕事に自信を持ち始めた頃だったし、仕事も何もかも捨てて、アルベールについていくことは選べなかった。

 そして、アルベールは最大限の優しさで私がしたいことを守ってくれた。

 でも、今のアルベールならスタイリストとしての私も守ってくれるという。お兄ちゃんのマンションを出ないといけない時期に来ているとは自分でも思っている。あまりにも居心地が良すぎてズルズルと甘えているのも理解している。している。でも、なんだかあのマンションを出る自分が想像できなかった。

「ありがとう。でも、急すぎて。それに高取さんとは兄妹のような関係よ。高校生の時から知っているのよ」

「それも分かっている。でも、出来れば、彼のマンションを出て欲しい。
 雅には急でも、俺にとって雅はただ一人の愛する人だよ。それは昔も今も変わらない。自分の環境の変化で別れることになったから、身勝手なことは言えない。でも、俺が今も雅のことを愛していることだけは知っていて欲しい」

 熱い視線を私に向けるアルベールを見ていると、同じだけの思いを返せなくなっている自分を感じた。アルベールの事は今でも好き。でも、愛しているかと言われると、疑問が残る。

 好きだけど愛してない。

 お兄ちゃんのマンションを出るのは、アルベールの力ではなく、自分の力で出たい。そう思った。
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