君をひたすら傷つけて
 この気持ちをどのように伝えたらいいのだろう。アルベールを傷つけないように言葉を探すけど、言葉が見つからない。どの言葉を選んでも、きっと私はアルベールを傷つけるだろう。でも、期待を持たせるような言葉を選ぶのは真っすぐにぶつかってくれたアルベールに申し訳ないと思った。もう、友達に戻れないとしても……。


「ありがとう。アルベールの気持ちは嬉しい。でも、高取さんのマンションを出るなら自分で出るわ。自分の力で生きていきたいの」

 アルベールはフッと息を吐くと、いつもの穏やかな微笑みを浮かべた。サラリと前髪を書き上げると少しだけ天井を見つめ、目を閉じ、そして、少しの間を置いてから、優しい声を響かせた。

「雅らしいね。本当に優しいね。そういうところが好きなんだけどな。この部屋に泊まっていくつもりは?」

「ないわ。自分の部屋に戻るわ」

「しつこくして嫌われるのは嫌だな。さ、もう少しワインを飲んだら部屋まで送るよ」

 そういいながらアルベールは私のグラスにワインを注ぐ。そのワインを見ながら、アルベールの優しさと愛情を感じていた。目の前の美しい人は私に愛を囁いたその口で優しさを囁いた。

「明日の朝の便でフランスに戻るけど、困ったことがあれば、いつでも言ってきて。友人として最大限の協力をするよ」

「ありがとう」

「当たり前。大事な友だちだから」

 お兄ちゃんのマンションを出る。

 そのことを考えないといけない時期に来ていた。

 
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