君をひたすら傷つけて
 楽しい時間は思ったよりも過ぎていて、もう少しで塾が始まる時間になる。行かないといけないと分かっているのにまだ一緒に居たいと思った。でも、センター試験はもうすぐ。ここが踏ん張り時というのは私も分かっていた。

「もう、帰らないと塾に間に合わなくなる」

「そうだね。楽しかったから時間が過ぎるのが早いよ」

「また来ていい?」

「ダメだよ。もう、藤堂さんには会えない」

「なんで?」

「塾までの道、気を付けてね」

 私の問いに答えることなく穏やかに微笑む高取くんに何も言えなくなった。無言で何も言うなって言われている気がした。

「じゃ、お大事に」

「今日はありがとう。会えて嬉しかった」


『会えて嬉しかった』というのが最後の言葉のように聞こえた。でも、最後の言葉にはしたくない。


 私は高取くんが入院している総合病院を出ると空を見上げた。すでに日も傾き、夜の暗さが包んでいる。空には真っ黒の中に星がキラキラと輝いていた。頬を撫でる冷たい風が肌が凍りつくほどに頬が赤くなる。


 こんな気持ちで高取くんのことを忘れることなんか出来ない。

 高取くんが好き。

 だから、私は高取くんとの約束を破ることにした。
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