君をひたすら傷つけて
「雅」

 ドアが開いて入ってきたのはリズだった。手にはそのままパリに行くので、荷物がいっぱい持たれてあった。里桜ちゃんの化粧直しをしてからすぐにきてくれたんだろう。私はリズの顔をみて、収まり掛けた涙がまだ滲むのを感じた。

 スタイリストとして、里桜ちゃんのメイク直しを出来なかったことを不甲斐ないと思った。

「リズ。ありがと。里桜ちゃんのこと」

「そんなに気にしないでいいわ。でも、雅の顔をどうにかしましょ。荷物も置きたいから控室に行きましょ。里桜ちゃんのご両親とは別の部屋を借りてから、綺麗にしましょ。大丈夫。すぐに綺麗にしてあげるから」

 私は飲みかけのワイングラスをそのままにリズと一緒に控室に行くことにした。里桜ちゃんのご両親と篠崎さんと里桜ちゃんの控室は隣同士で、本当なら里桜ちゃんのご両親のいる控室が来賓控室だけど、気を遣わせると思い、店の人の空いている部屋はないかと聞くと少し離れたところにある控室を使っていいと言われた。

 控室に入ると、リズは私は椅子に座らせ、手に持っていたメイクボックスを開いた。そして、鏡の中に映る私を見て、首を傾けた。リズが困ったような表情をするのも無理はないくらいに私の顔は酷かった。こんな顔で数分とはいえ、街中を歩いたのは恥ずかしいレベルだった。

「一度クレンジングしてから、メイクをし直した方がいいみたいね。このまま、ファンデーションの上塗りしても綺麗にならないわ。頬に涙の筋が出来て、ハンカチで拭いた痕が残っている」

「感動して泣いちゃった」
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