君をひたすら傷つけて
 そんな橘さんのウイットに富んだスピーチに会場は大爆笑に包まれた。橘さんは仕事の時と、プライベートとが全く違う。『カカア天下』なんて言葉をこの場で言うとは思わなかった。でも、お兄ちゃんは『仕方ない』って感じの表情をしながら、笑いを噛み殺しているようだった。どうにか表情を引き締めると、手に持っていたグラスを軽く上にあげるとみんなを見回した。

「それでは乾杯の音頭を取らせていただきます。海斗さん、里桜さん。結婚おめでとうございます。乾杯」

 近くの人と乾杯をしてから、その度にお祝いの言葉を言う。篠崎さんと里桜ちゃんを中心に幸せの色が増していくのを感じた。

「さ、雅も食べるでしょ。料理持ってくるから、座ってて。新郎新婦へのお祝いは後からにしましょ」

「うん。サラダとパスタがいいわ」

「わかった。待ってて。このレストランってかなり有名だから、色々と食べたいわ。前菜も凄そう」

 そういうとリズはグラスを置いて料理の方に行ってしまった。私は自分の仕事が終わったと少しだけホッとしていた。結婚式も終わり、パーティも順調に進んでいる。後は里桜ちゃんがドレスを脱ぐときに少しだけ手伝えばいい。

 喉を流れる冷たいシャンパンを美味しいと感じていた。二杯目のグラスに手を伸ばし、シャンパンを飲んでいると、揺れ過ぎた心が少しだけ落ち着く気がした。アルコールの酔いが少しだけ私を慰めてくれる。何も食べてない状況でシャンパンを二杯目飲むのは酔いが回りやすいのは分かっているけど、飲むのをやめることは出来なかった。
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