君をひたすら傷つけて
「そうだな。一人で飲ませるよりはいい」

 私は冷蔵庫の中から冷やされたワインを取り出すと、栓を開け、ワイングラスに注ぐ。それをお兄ちゃんは何も言わずに見ていた。少し口に含むと少しの苦みが私を包む。そして、お兄ちゃんもグラスに口をつけた。

 少しの沈黙があって……。繋ぐ言葉を探した。どう説明したら、心からお祝いする気持ちがあるのに、羨んでしまった私を伝えられるだろう?

「今日の里桜ちゃんと篠崎さんの結婚式を見て感動した。
 大学の時からずっとパリに居たから、結婚式というものに初めて出席したの。
 感動した。
 それはそこに愛があったから。愛って形はないの。でも、篠崎さんと里桜ちゃんの間には本当に相手のことが好きで、愛していて、思いやる愛に溢れていた」

 お兄ちゃんは私の話を黙って静かに聞いていた。

「結婚パーティを見て、二人の姿が綺麗だと思って、素敵だと思って。ああ、こんな幸せいいなって……私の理想だった。でも、それと同時に私にはない未来を見ている気がしたの。二人の幸せを心から願っている。でも、その反面、羨ましかった。私にはない未来だから。私は恋を出来ない」


 私の心の中にある気持ちを少しずつ言葉にすると、お兄ちゃんは何も言わずに私の話を聞いていた。そして、一度視線を落としてから、言葉を探しているような表情を見せ、一瞬、唇を噛んでから、吐き出すように私の名前を呼んだ。

「雅……。羨ましく思う必要なない。今からでも雅は幸せになれる」

「歴史ある教会で結婚式を挙げ、大好きな人に包まれての結婚パーティ。そして、橘さんと叶くん」
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