君をひたすら傷つけて
「聖と叶??」

 教会で橘さんの横で叶くんは目をキラキラ輝かせながら、嬉しそうに父親である橘さんに話しかけていた。ニューヨークで会った時の橘さんは映像作家として、篠崎さんが何度もリテイクするほどの厳しい目をしていた。

 でも、今日の橘さんはあの時の厳しさも激しさもなく……。篠崎さんの親友であり、叶くんのお父さんをしていた。

「二人は凄く似ていて、誰が何を言っても親子だと分かる。私も義哉との未来が欲しかった。未来がないと笑う義哉と一緒に未来を生きたかった」

 お兄ちゃんは窓の方を見つめ、静かに囁くような声を響かせた。

「義哉は生まれてしばらくして、身体に病気があることが分かっていた。先天性のものだった。いつ何があるか分からない状況だったから、未来を夢見たりはせずに、ただ、毎日を大事に過ごすしかなかった。そんな義哉を見ながら思った。

『義哉が望むことをさせてやりたい』と。その日から自分に出来ることは何でもしてきた。そんな俺が初めて反対したのが雅との事だった。それに、高校に編入することも怖かった。高校は人が多く集まる。そんな中で病状が悪化することもだけど、義哉が自分と周りの差を悲観するのではないかとさえ思った。

 高校に行くことを強行した義哉は、雅とのことを反対する言葉に義哉は『分かった』と言いながら笑った。その微笑みをさせたことに胸が痛かった。既に余命を宣告された状況で恋をしたとして何が残るんだろうって」

 お兄ちゃんの言葉に涙が零れる。思いは義哉が溢れる。
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