君をひたすら傷つけて
「大丈夫。ちょっと飲んだだけだから。もう寝るつもりだったの」

「日本でもマンションで一緒に飲むことはいっぱいあった。でも、今日の雅は明らかに可笑しい。疲れているとかじゃなくて、ずっと笑っている時も泣きそうな顔をしている。俺は力になれないか?」

「そんなことないけど」

 お兄ちゃんの後ろでドアがしまった。閉ざされた空間で、お兄ちゃんは私の顔を見つめた穏やかに微笑んでいる。手を伸ばすとお兄ちゃんは私の髪をゆっくりと撫でた。高校生の時からずっと、私は落ち込んだり、悩んだりするとこうやって髪を撫でてくれた。

 あの時から、私とお兄ちゃんは運命共同体だった。同じ痛みを持つ同志だった。

「どうした。雅。言いたいことがあるなら言った方がいい。一人で飲まないといけない何かがあったなら、言って欲しい。出来ることなら力になる」

「でも……。何もないの」

「雅。大丈夫だから、怖がる必要ないから。そんな顔をしている雅が何もないなんてないだろ」

「とりあえず部屋に入っていいか。ここじゃ、ゆっくり話も出来ない。雅の話を聞きたい」

 私はさっきまで飲んでいたソファに向かって歩くと、少し離れたところにお兄ちゃんの存在を感じる。後ろを歩くお兄ちゃんを感じながら、もう逃げれないし、誤魔化しは効かないと思った。私がさっきまで座っていたソファの前に座ると、お兄ちゃんは手に持っていた携帯をテーブルの上に置いて、私を見つめ、自分も私の前に座った。

「もう少し飲んでもいい」

「いいが、身体がきつくなったら、水の方がいい」

「飲みたい気分なの。お兄ちゃんも飲む?」
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