君をひたすら傷つけて

心を流れる涙

「無理だ。雅が傷つく。そんなことを俺が出来るわけないだろ」

 私は立ち上がると、ソファに座っているお兄ちゃんの前に立ち、着ていた部屋着を脱いで、お兄ちゃんを真っすぐに見つめた。自分の肌が赤く火照っていくように感じた。お兄ちゃんは私を見つめ、泣きそうな顔をする。いつも自信に溢れ、冷静沈着のお兄ちゃんの表情が揺れる。

「私を抱いて」

 私はそっと前に立つとソファに座るお兄ちゃんに抱き着いた。

「お願い。私を拒まないで」

 お兄ちゃんはすっと私を抱き上げるとそのまま横抱きにし、そのままベッドの上に私の身体を寝かせると自分の身体で包み込んだ。外した眼鏡をサイドテーブルに置くと、そのまま部屋の明かりを消した。

 自分の心臓の音かお兄ちゃんの心臓の音か分からないくらいに煩く鳴り響く。髪を撫で、背中に熱い手が回る。首元に埋められたお兄ちゃんの吐息が耳を霞める。ただ抱きしめられただけで私の身体は甘い刺激を感じていた。

「雅。お前が大事なんだ。誰よりも……」

 お兄ちゃんはそう囁き、私の頬に唇を落とす。頬にいつの間にか流れていた涙にキスを落とす。私は泣かないように、私が少しでも幸せになるようにお兄ちゃんは願っている。

 そんな優しさを私は壊す。

 私はお兄ちゃんの首に手を回すと、薄い唇に自分の唇を重ねた。重ねただけで痺れが身体中に流れる。自分で私は優しい関係を壊した。

 それはお兄ちゃんの気持ちの全てを無視したものだった。
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