君をひたすら傷つけて
 どのくらい時間が過ぎたのだろう。

 ホテルの部屋の足元灯が仄かに光るだけで、ベッドの中に入り込んだ私には逆光でお兄ちゃんの表情は見えない。

 最初、戸惑いの方が大きかったお兄ちゃんは何も言わずに私を抱きしめていた。触れ合う肌は熱く燃えてしまうようだった。そんな私に、お兄ちゃんは本当に優しかった。壊れ物を扱うように私を抱きしめ、何も身に着けてない肌に、自分の肌を寄せ、静かに滲みだした汗に張り付いた前髪をそっと、後ろに梳く。

 ゆっくりと包むように身体に唇を寄せていく。額にこめかみに頬に唇に首筋に…落とされていく唇の熱さに身悶えした。緊張が身体に力を入れさせていたけど、次第に身体も緩んでいく。感覚を拾い出した身体をお兄ちゃんは抱き寄せた。

「怖いな」

 ずっと黙っていたお兄ちゃんが零した言葉だった。苦し気な表情を浮かべながら私を抱き寄せる。何度も唇を重ね、吐息を感じ、私は緩やかに息を乱しはじめていた。

「何が?」

「大事だからだよ。その大事なものを自分で壊そうとしている。ずっと大事にしてきたのに……。もう戻れない。戻ることが出来ない」

「戻らなくていいよ。私が望んだことだから」

 静かに紡ぎ、重なる時が夜と共に更けていく。染められていく自分の身体を愛おしいと思うのは何故だろう。我儘を言って、優しい関係を壊した。

 それなのに私はお兄ちゃんが与えてくれる喜びに身体を震わせていた。
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