君をひたすら傷つけて
 お兄ちゃんに抱かれながら、私は色々なことを考えては、考えられなくなり、目を開けてお兄ちゃんをみると、ドキッとするような色気を放つ男の人がいた。ドキッとした。義哉の遺伝子が欲しいとの言葉通りに私を抱く人は義哉でもなく、お兄ちゃんだった人でもなく、ただ一人の男の人。

 怖いくらいに溶けていきそうな心地よさに身体を逸らせる私をどう見ているのだろう。もう兄妹の優しい関係ではいられない。優しい関係を壊してしまったことをいつか後悔するかもしれないが、抱かれている自分を愛しいと思う。

 こんなにも大事にされ、こんなにも優しくされ。
 もう何もいらないと思った。

 結婚式や結婚パーティでの羨ましいと思った気持ちも、揺れた心も全て包まれ、静かに温もりを感じ、喜びを感じ、幸せを感じた。怖いくらいに幸せだった。素直に自分の身体の隅々まで愛されながら、私は違う意味での涙を流していた。全てのことが洗い流され、細胞の一つ一つから変わっていく。

 伝えれない気持ちを私は感じていた。でも、伝えないことは私の良心でもある。

 朝の六時を少し過ぎたくらいの時間だったと思う。微睡の中にいる私の横で動く気配があった。包まれていた腕がゆっくりと解かれ、自由になる寂しさを感じた。汗を掻いたからか、途中で水を飲まされたからか、二日酔い独特の頭痛や身体の怠さはないけど、ゆっくりと一晩中愛された身体は怠さを感じていた。
< 917 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop