君をひたすら傷つけて
 私は空港から一度マンションに戻って、持って帰ってきた荷物を置くと、エマに連絡した。エマはすぐに電話に出てくれた。

『今、マンションに戻ってきたわ』

『リズから連絡が来ていたわ。授賞式も、結婚式もパーティも上手くいったみたいね。それと、リズが言うには、ディーのコレクションに篠崎海が出たらしいわ。急にモデルが体調を崩して』

『そうなの?』

『彼が日本に帰ってきたら、忙しくなるわ。モデルの件は公にはならないだろうけど、受賞したから、しばらくはテレビに出ることが増えるから、ウチの仕事も増えるわ。雅は篠崎海が帰ってくるまではオフ。ゆっくり身体を休めて、彼が戻ってきたら、すぐにスケジュールが決まると思うからスタンバイしておいて』

『分かった。連絡が入ったら、すぐに行くから』

 映画祭で審査員特別賞を受賞したから、日本に帰ってきたら、忙しくなる。でも、私は今日は疲れているにも関わらず、オフではなく仕事をしたかった。あまり色々考えると自分の中でクルクルと思考が揺れる。

 お兄ちゃんは篠崎さんよりも先に戻ってくる。
 私はどんな顔をして、会えばいいのだろう。昨日の夜のことをなかったことにした方がいいとは思うけど、消せないほどの温もりを私の身体は忘れてない。自分の身体を抱き寄せるとどうしようもない気持ちが溢れる。

 帰ってくるまでのタイムラグが……。私には必要で、すでに日本に向かっているお兄ちゃんに会って何を言えばいいか、考えないといけなかった。
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