君をひたすら傷つけて
 空港が静けさを取り戻すまでに時間は掛かるだろう。そんな思いで、少し離れた場所で静かに座って里桜ちゃんが出て来るのを待つのがいい。マスコミとファンの人混みを避けようと出国ゲートから離れようとすると、出国ゲートの一番前に篠崎さんを待っているお兄ちゃんの姿を見つけた。

 真っすぐに出国ゲートを見つめている。昨日は忙しかったのだと分かるくらいにお兄ちゃんは表情を硬くしている。今から、篠崎さんは事務所に戻り、着替えを済ませてから、一番最初の取材先であるテレビ局に向かう。

 こんな雑踏の中、私はお兄ちゃんから目を離すことが出来なかった。私のところからお兄ちゃんは見えるけど、お兄ちゃんからは私は見えないだろう。

『空港についているから、里桜ちゃんのことは任せて』

 私はお兄ちゃんが少し安心するようにメールをした。私からのメールに気付いたのか、お兄ちゃんは携帯の画面を見つめ、フッと表情を緩めた。そして、周りを見回したけど、私の姿を見つけることが出来ないのか、探しているようにしていたが、ちょうど篠崎さんが出てきて、その場が一気に熱気を帯びていった。

 篠崎さんがゲートを出てくると、お兄ちゃんは篠崎さんを庇うように前を歩き、その後ろを篠崎さんが歩いてくる。そして、人混みに篠崎さんは頭を下げてから、お兄ちゃん以外の事務所スタッフに庇われるように歩き出す。そんな姿を見ながら、そろそろ里桜ちゃんが出て来るだろうと思った。

『里桜ちゃん。もう少しで報道関係の人が居なくなるから、もう少しそこに居てね。想像以上に篠崎くんの人気は凄いわ』

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