君をひたすら傷つけて
「そうなんですね」

「里桜ちゃん。無視していいから」

 雪都が私たちのテーブルに持ってきたのは色とりどりの野菜の上に並べてある白身魚のカルパッチョだった。

「今日はいい鯛が手に入った。期待していいよ」

 雪都が大学の時に長髪で、髭も伸ばしていた昔を知っているだけに、この繊細な料理を雪都が作るとは思えない。大学卒業後、商社に就職して、一年もしないうちに辞めて、バイト先のイタリア料理店で修業して、自分の店を持った。

 雪都の店をサークルの集まりで使うのは先輩たちの優しさだろう。ここで先輩にも再会したし、雅人にも会った。

 目の前にある料理の繊細さはフランスでもイタリアでも通用するだけの実力はあると思う。単なるカルパッチョソースではなく、オリジナリティに富んだソースだし、本場のイタリアの味と言うよりは日本人の味覚にあっているように思える。

 このカルパッチョは初めて食べた時に感動した。雪都の中でも自信のある前菜なのだろう。

「美味しそう」

「当たり前、俺が作ったから。まだ、客もそんなに居ないから、取り分けてやるよ」

 そういいながら、雪都は私と里桜ちゃんのお皿にカルパッチョを取り分けた。ただ、ガサッと取るだけでなく、繊細な手さばきを披露する。それに里桜ちゃんは真剣に見つめている。

 里桜ちゃんは嬉しそうに雪都の手元を見ていて、取り分けられたカルパッチョを口に運ぶと素直に美味しいと呟くように言い、満面の笑顔を見せた。女の私でさえ、可愛いと思ってしまった。


 
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