君をひたすら傷つけて
「イタリアで抱かれて、日本に帰ってきた高取さんに俺の子どもを産んでくれって言われたってこと?それって、結婚を前提ってこと?」

「そんな風に言われたけど、応えられなかった。だって、私の我儘で無理に抱いて貰ったのに、その上、責任を取るように結婚と言われても……。幸せになって欲しいの。お兄ちゃんには」

「それで色々と考えすぎて、雅は体調を崩したのね。眠れないくらいに悩んだのね」

「夜、一人でいると色々と考えてしまうの。壊してしまった関係が私を悲しくさせる」

 イタリアで抱かれて、幸せだった。でも、その反面失ったものの大きさに寂しさを感じた。そのまま、酔った勢いでなかったことにするのが良かったのかもしれないけど、日本に帰ってきて、お兄ちゃんは誠実に私に向かい合ってくれた。

 それからも私は逃げた。

「冷静に考えてみて、ワインで酔っていたとはいえ、高取さんが雅を傷つけるようなことをすると思う?私の知っている高取さんなら、それなりに決心を決めないと『妹』のように大事にしていた雅と男と女の関係にはならないと思う。高校生の時からずっとでしょ。あの手の男の人は酔って誘われたからって、簡単に手を出したりしない。高取さんは雅のことを愛しているから抱いたとしか思えないわ」

「そうなのかな?単なる我儘に付き合って、その責任を取ろうとしているのかもしれないでしょ。そんなのお兄ちゃんが幸せになれない」

「高取さんの雅への思いは愛しているからの行為でしょ。それに高取さんの気持ちを全て雅が分かるわけないのに決めつけるのは失礼よ」

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