君をひたすら傷つけて
 私はその申し出に甘えることにした。お兄ちゃんのことが好きな今、リズがいいと言っても甘える事は出来なかった。私の気持ちが分かっているからか、エマもリズもまりえも何も言わずに、私の好きなようにする方がいいと言ってくれる。

 お腹の中の大事な命を守りながら頑張っていく。それがどんなに厳しく辛い道であっても、私は自分で守りたいと思う。リズは『父親になりそこなったけど、別に父親じゃなくても可愛がるから』と開き直るから、私も安心してしまうのかもしれない。心のどこかで甘えつつも自分の足で生きていきたいと思った。

 お兄ちゃんを好きな気持ちは私の心の中で大事にしていけばいい。それは素直な私の気持ちだった。

 会いたい気持ちもある。でも、今は……。離れている時間も大事にしたい。この世界で仕事をするからにはきっといつか、どこかで出会うだろう。

 その時に、真っすぐに自分に自信をもってお兄ちゃんに出会えるように。恥ずかしくないように生きていきたいと思った。私の中に育つのは義哉の遺伝子ではなく、私が好きになった高取慎哉さんの大事な子ども。生まれてきて良かったと思うように愛を注ごうと思った。

 その日、事務所でスケジュール調整の会議を行っていた。

 篠崎さんのドラマの撮影だけでなく、ドラマに付随した雑誌の撮影、女優の雑誌の撮影の仕事もあり、バラエティ番組での番宣もあり、仕事が多岐に渡っていた。そして、二つの撮影が同時に別の場所で行われることとなり、分刻みでエマとリズの二人が移動するためにどうしたらいいのかを話し合っていた。
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