桜ノ華



アパートは啓一郎が用意してくれた。

狭いけれど二人暮らしには十分だ。


「本当に行くの?」

「はい。…少しでもあの人のお傍にいたいんです」



―これ以上、啓志さんをひとりにするわけにいきませんから。



その言葉に陽人は唇を噤んだ。


「おばあちゃんのこと、お願いしますね。陽人さん」

「…ああ。任せて。桜さんも、しっかりね」


微笑み、歩き出した。

後は電車に乗り込むだけだ。


「何かあったら、連絡して! すぐに駆けつける!

いつでも帰ってきて! 俺にできることなら何でもするから、頼って!」


背後から聞こえる陽人の声には、振り向かない。



< 102 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop