桜ノ華
アパートは啓一郎が用意してくれた。
狭いけれど二人暮らしには十分だ。
「本当に行くの?」
「はい。…少しでもあの人のお傍にいたいんです」
―これ以上、啓志さんをひとりにするわけにいきませんから。
その言葉に陽人は唇を噤んだ。
「おばあちゃんのこと、お願いしますね。陽人さん」
「…ああ。任せて。桜さんも、しっかりね」
微笑み、歩き出した。
後は電車に乗り込むだけだ。
「何かあったら、連絡して! すぐに駆けつける!
いつでも帰ってきて! 俺にできることなら何でもするから、頼って!」
背後から聞こえる陽人の声には、振り向かない。