あなたと恋の始め方①
『折戸さんが静岡に来て、仕事が終わったので今から一緒に食事に行くことになってます』


『そうだろうと思っていた。折戸さんは何も言わなかったけど、静岡まで来たのは美羽ちゃんに会うためだからそうなるのは分かっていたよ。折角、折戸さんと食事をしてくるなら、美味しいものをご馳走して貰っておいで』


 支社で小林さんに会うと言っていたから当たり前だけど、電話の向こうの声はいつもと変わらない優しい口調が胸を痛くする。反対して欲しいわけでもないけど足下がガラガラと崩れていくような気がした。高見主任が取締役と所長と一緒に食事をするのだからフランスから帰ってきた折戸さんを独りで食事をさせるなんてとは思うけど、何とも思われないのも寂しい。


 小林さんにとって私は何なのだろうか?

 涙が出そうになるのはなんでだろう。こんなに小林さんの言葉に心が震えてしまう。



『そうですね。美味しいものをご馳走になってきます。おすすめはありますか?』


 私のことをもう何とも思ってないから、目の前でプロポーズされていた相手と食事をする私にそんなことを言えるのだと思う。自分で言って自分で傷ついているなんて、自分でも呆れてしまう。


 少しの沈黙があって…。小林さんがフッと息を吐くような音が聞こえたような気がした。


「折戸さんが美味しい店に連れて行ってくれるよ。でも、食事が終わったら、俺に連絡して」


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