あなたと恋の始め方①
「はい。打ち込みが終わったら報告します。あの、コーヒーはどうしますか?」


「後でいい」


「はい」


 私は買ってきたコーヒー豆を棚に入れるとすぐにパソコンを立ち上げ仕事を始める。中垣先輩が書きなぐったレポート用紙の数字を拾いながらデータを完成させていく。いくつものデータが揃っても、何度も失敗を繰り返す時間が始まる。辟易することもあるけど、結果だけでなく、失敗したデータも将来の役に立つかもしれないので、情報としてストックしていく。


 その繰り返し。
 でも、机上で考えてことも実際にはうまくいかなくて…。現実が重く圧し掛かってきた。何度も溜め息を零す私を横目に中垣先輩は


「コーヒー」


 中垣先輩がそう言ったのは、出社して一時間半もたった頃だった。中垣先輩は真剣で難しい顔をしている。私が打ち込んだパソコンのデータを検証しながらもあまりにも芳しくない状況に眉間に皺を寄せている。


「はい。濃いめがいいですよね」


「ああ。眠気が飛ぶくらいのがいい」


 中垣先輩に言われてコーヒーメーカーに豆をセットするとしばらくしていい香りがしてきた。そんないい香りに包まれると少しだけ気が緩む。私はこの立ち上る香りが好きだった。


 中垣先輩のマグカップと、私のマグカップには漆黒の液体が注がれる。濃いめが好きな中垣先輩に合わせるとそれは私には少し濃すぎて…。ミルクと少しの砂糖が私には必要だった。

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