あなたと恋の始め方①
「御馳走さまでした」


「美羽ちゃんは全然食べてないよ。食べたの殆ど俺だし」


 今日も小林さんが全部払ってくれて、結局私には払わせてくれなかった。小林さんは『俺が殆ど食べたから』というけど、私もお腹いっぱいになるくらいは食べている。何度言ってもそれだけは譲ってくれない。そんな小林さんの優しさに今日もまた甘えてしまった。


 店を出ると、小林さんの横に並んで一緒に歩く。終電間近の駅の周辺はたくさんの人で溢れていた。およそ八割方は酔っぱらっているようで、楽しそうな笑い声があちこちから聞こえてくる。週末ほどじゃないけど、人は多い。急にぶつかってきそうになるサラリーマンの人から私を小林さんはスッと庇ってくれて、優しい顔で私を見つめる。


「美羽ちゃんはもっと左の方を歩いたほうがいいね」


 そういうと、小林さんは私を庇うように歩き出したのだった。私を庇うように歩く小林さんの優しさに私の心は熱くなる。身体の大きな小林さんの傍にいるととっても安全に守られているような気がしている。もっと傍に行きたいと思う気持ちはどうしたらいいのだろうか?


 もしも、私が好きって言ったら私の気持ちを受け止めてくれる?


 そんな思いがクルクル頭の中を回っている。でも、そんなことは言えないから、私は話を元に戻すしかなかった。それこそ、こういう時に折戸さん直伝の『帰りたくない』とでも言えればいいのに、そんな芸当は出来ない。

 
「小林さんにいつも奢って貰ってばかりで申し訳ないです」

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