あなたと恋の始め方①

ドキドキの夜

 私も小林さんが好き。だから、初めてのキスは驚いたけど、心の奥底からふわっと温かいものが溢れ、ドキドキしながらも自分の自分の気持ちを自覚する。『嬉しくて幸せ』というのが私の素直な気持ちだった。小林さんと一緒に過ごす時間はとても楽しくて仕方ない。


「謝らないで。私も嬉しかったから」


 自分の気持ちを言葉にするというのはとても恥ずかしい。顔が真っ赤になっているとは思うけど、この遊園地の暗がりでは小林さんには気付かれないだろう。でも、もしも気付かれたとしても小林さんは何も言わないと思う。


「多分、俺の方が嬉しかったから、さ、帰ろうか」


 小林さんの言葉の最後の語尾が少しだけ小さくなりながら私の手を取るとゆっくりと人の波に向かっていく。花火も終わり、この遊園地も閉演になる。駅へと続くゲートはたくさんの人で溢れていた。閉園の時間に合わせて公共の交通機関も動くけど、これだけたくさんの人が動くとなると時間が掛かる。静岡に帰りつくのはきっと真夜中になっているだろう。


 それでも、この遊園地を出ると現実が待っている。夢のような時間は終わりに向かって流れていて、その流れは閉園と共に一気に動き出す。目の前に広がる広大な光景は既に暗く、通りを照らす電灯が通路をオレンジ色に染めている。その下を歩くのは既に遠目から判別出来なくなった人の影。


 帰りたくないと思うのは我が儘なのだろうか?

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