あなたと恋の始め方①
「帰らないといけないですね。電車の時間もあるし」


「うん。ねえ、美羽ちゃん。明日の予定はどうなっているの?」


 明日の予定はさっきまでは何もなくて、家でゆっくりするつもりだった。でも、さっき携帯に届いた折戸さんのメールを見て、私は空港まで見送りに行こうと思っている。でも、プロポーズを断ったのに見送りに行くのかどうかとも悩む。だから、折戸さんに嫌な思いをさせるくらいなら折戸さんの乗った飛行機を見送るだけでもいいと思っていた。


 フランス行きの飛行機で昼に出発する便を調べていけば、見送りは出来ると思っている。でも、これは小林さんに言うべきことじゃないというのは分かっている。仮にも付き合い始めたばかりの彼にプロポーズされた相手を見送りにいくなんて言えない。例え、飛行機を見送るだけでも言えなかった。


「ちょっと用事があるので朝から東京に来るつもりです」


「え。明日も東京?それならこのまま泊まった方が楽じゃない?」


 今の時間から静岡に帰って、明日の午前中に東京に向かうなら、このまま東京にいるほうが楽なのは確かだった。でも、今まで一緒にいたのに、私だけ東京のホテルに泊まって、小林さんにだけ静岡に戻って貰うなんか出来ない。


 小林さんは歩いていた足を止めると私の方をしっかりと見つめた。

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