あなたと恋の始め方①
 パソコンの画面を見なければいいのに、つい凝視してしまって…。溜め息をもう一度零した。


 部屋のことはひとまず置いておこう。そう結論付けた。



 気持ちを切り替えて、私はお料理の本を見ることにした。ハンバーグは何度も作ったことがあるけど、本を開いて探すのはハンバーグの横に置く付け合せだった。見た目が綺麗で栄養があって。出来れば小林さんが喜んでくれるものがいい。でも、そんなに簡単に見つからなくて、ベッドに寝転んで…あれこれとページを捲る。


 ページを捲りながらちょっとだけウキウキしている私がいた。こんな風に人のために食事を作るのは初めてだし、それも好きな人のためというのも勿論初めて…。


 ハンバーグをメインに献立を考えていくことにした。いくら小林さんが『ハンバーグが食べたい』と言ったとしても、さすがにそれだけでいいわけがない。サラダにスープに…あとは何が必要なんだろう。研究所を読むのと一緒なくらいに必死に『お料理の本』を捲る。どれもこれも美味しそうで悩みに悩む。


 そんな中、自分の作れそうなものと、小林さんが好きそうなものを選んで作ることにした。メニューが決まってホッとしたのは一瞬ですぐに血の気を失う気がした。私がメニューを決めた直後に気付いたのは…。

 
 致命的なこと。


 私の部屋には自分の食器しかない…。


 調理道具も調味料も普通に料理するくらいにはある。でも、食器だけは私の物しかない。今まで誰にも食事を作ってあげることがなかったから、必要性は感じなかった。

 
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