あなたと恋の始め方①

降り注ぐ優しさ

 出会ってかなりの時間が流れている。それなのに、会う度に小林さんを知る度に好きになる。


 最初は恥ずかしかったし、心臓の鼓動の煩さに驚きもしたけど、今はそれさえも愛おしい。長く重なるだけのキスが終わりを告げると、私はゆっくりと目を開く。そこには少し目を細め、艶のある表情を浮かべた小林さんの顔があった。爽やかな小林さんに感じる色香に私はまたドキドキが止まらなくなる。


「美羽ちゃん」


 いつもは無邪気で優しい微笑みを浮かべている小林さんが見せる表情に胸の奥が揺れる。いつもとは違う小林さんがそこにはいた。よく知っているはずなのに、全く知らない一面を見せる小林さんのドキドキしながらも魅せられる。


「美羽」



 抱き寄せる腕の力も少し緩んだのを取り戻すかのようにキュッと締まる。離さないかとでもいうように逞しい胸に包まれると動く事さえ出来なくなる。私はそっと自分の腕を小林さんの背中に回すと、小林さんは一層強く抱きしめてくれた。傍にいるだけで幸せな気持ちになるのに、今の小林さんは私の知らなかった一面を見せる。


 初めて小林さんから『美羽』と呼ばれた。少しの独占欲を孕む声は私の心を簡単に揺り動かす。


 でも、それは少しも嫌じゃなくて、少しずつ小林さんに近付いているように感じた。小林さんのことをもっと知りたい。怖いけど、知りたい。

 そんな気持ちに包まれていた。

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