あなたと恋の始め方①
 私の中が全て小林さんで埋め尽くされていくように感じた。小林さんの唇は何度も角度を変えながら深くなっていく。その度に私は自分の身体の奥底にポッと小さな明かりが灯ったように感じた。ドキドキも止まらなくて、心臓が壊れるのではないかと思うくらいに音がする。心臓が煩くて堪らないのに辞めないで欲しいと思った。


 もっとこのまま時間が流れてくれたらいいのにと素直に思う。それくらい小林さんとのキスは甘美で私を簡単に蕩かせていく。薄らと目を開けると、そこには小林さんの肩越しにさっきのベッドが目に入る。一瞬、身体が強張った。身体は素直で、私の不安がそのまま反応してしまう。


 最初は小林さんがいいと思っているのに、怖さもあって、不安になる。恋愛経験が皆無の私だから、男の人と肌を触れさせることは初めて。だけど、自分で小林さんと一緒の部屋がいいと言ったのだから今更怖いとか言えないと思った。小林さんの身体も心も預けるしかない。


 きっと小林さんなら優しくしてくれるはず。


「美羽ちゃん」


 甘く掠れる声が私の耳元で囁かれ、逞しい腕はもう一度深く私を抱きしめる。その瞬間にまた視線には真っ白に整えられたベッドが目に入る。私に出来るのは小林さんの抱きつくことしか出来なかった。それは自分の中の不安を誤魔化すために私がとった行動だった。小林さんに私の心の揺れを気付かれたくなかった。


「美羽ちゃん」


 さっきよりも優しさを増した声が私の耳を擽る。


「なんですか?」


 何を言われるのだろうと思った。


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