あなたと恋の始め方①
 緊張が高鳴り、小林さんの言葉を待つ私がいる。今の私は思考を制御されたかのように小林さんのことしか見えない。


「食事に行こうか?俺さ、さっきからお腹が空いて堪らないんだ。さすがにピザだけで足りないよ」


 小林さんの声に一気に身体の力が抜けるのを感じた。緊張が一気に解けると、不意に涙が浮かんだ。ホッとしたのだと思う。一緒に居たいのに自分の中の不安に押しつぶされそうだった。それは小林さんがどうとかいうわけではなく私の問題。そんな私に気付いているはずなのに、小林さんは何もそのことには触れないで『お腹が空いた』という。


 お腹が空いているのも嘘じゃないと思うけど、一番の理由は私に時間をくれたのだと思った。私が自分で作っているものを打ち破り、小林さんの腕の中に飛び込めるための時間が今は嬉しかった。



「和風。洋風。中華風。何にしようか?」


 私は涙に滲んだ瞳を見られたくなくて、小林さんの胸に抱きついた。その小林さんの優しさに好きという気持ちが募るのを感じる。


「カレーはどうですか?」


「カレーってインド風だよ。美羽ちゃん。本当にカレーな気分?」


「言ってみたかっただけです。何でもいいですよ」



 私がそういうと、小林さんは私の緊張を打ち払うかのように大きな声を出して笑ったのだった。

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