あなたと恋の始め方①
 ビールに何かの薬が混ぜられていたのではないかと思うくらいにイジワルだ。いつもなら逃げ道をくれるのに、今日の小林さんは私を追い詰める。小林さんは子どものように無邪気な表情を浮かべながら私をゆっくりと追い詰めていく。そして、それはいつもの優しさで作ってくれる逃げ道は全くない。


「美羽ちゃんの『私も』って何?」



「え。あのそれは…。」


 好きという言葉は口に出そうとする度に心がキュッとなる。でも、今は心がキュッとなろうが、潰れようが伝えないといけない。今、この瞬間に逃してはいけないものは私の気持ちを素直に言わないといけない。ずっと傍に居たいと思っているって…。今、この瞬間、とっても幸せだって。


 大好きだって…。
 


 私はドキドキ高鳴る心臓の鼓動を抑えるように胸の前の服をキュッと掴む。


 あまりに激しすぎる動悸が小林さんに聞こえないように、胸を押さえて、グッと背伸びした。身体が伸びる度に私と小林さんの身長差が縮まっていく。


 距離が縮まっていく。

 周りにもたくさんの人がいるのに私には小林さんしか見えなくて…。揺れる瞳に私が映っている。


 そして、爪先が伸びきった時に耳元で囁いた。背中がグッと伸び、ふくらはぎには緊張が走る。これ以上伸ばしたら足が吊ってしまいそう。恥ずかしさに少しだけ震える声は小林さんの耳に届くのだろうか?


「好き。小林さんが大好き」


 すると、小林さんは満面の笑みを浮かべて私に微笑みかけた。

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