あなたと恋の始め方①
 さっきの情熱的で私の心の全てを奪って言った小林さんはどこに行ったのだろう。そんなことを思うくらいに今、目の前にいる小林さんはいつもの小林さんであまりの違いに心が付いていかない。混乱する私を小林さんはいつものように優しく見つめていた。


「驚かせてゴメン。俺、美羽ちゃんのことでいっぱいになりすぎて可笑しくなった。でも、大丈夫。俺、大丈夫だから」


 そんな言葉を小林さんは自分に言い聞かせているようだった。


「でも、こういう時はやっぱりこれだよね」


 そういうと、小林さんはふわっと私を抱き上げるとそのままホテルの部屋に入っていく。所謂『お姫様抱っこ』の状態の私はいきなりの小林さんの行動に目を見開くばかり。いったい小林さんはどうしたのだろう。心が蕩けそうになるキスも、いきなりのお姫様抱っこも普段の小林さんでは絶対にありえない。


 私は小林さんの腕の中ゆっくりと部屋に入り、そして、小林さんは窓際のベッドの上に私の身体をゆっくりと下ろしたのだった。そして、スッと私の身体から離れてしまう。


「やっぱり俺が先にシャワー浴びてきてもいいかな?美羽ちゃんは買ってきたものを冷蔵庫に入れておいてくれる?」



「はい」


「ありがとう。じゃあ、先に入るね」


 そういうと、さっさとバスルームに入ってしまった。そして、すぐにシャワーの水音が聞こえだして、そんな音を聞きながら私は寂しいと思ってしまった。


「もう少し一緒に居て欲しかったのに。」


 そんな私の呟きはバスルームのシャワーの音に掻き消されるように天井に消えて行った。

< 322 / 403 >

この作品をシェア

pagetop