あなたと恋の始め方①
 研究所を出ると既に辺りは真っ暗になっていた。時間は九時を回っている。ちょうど定時を過ぎた頃にブラインド越しにオレンジに染まっているなとは思ったけど、研究に没頭していると時間の流れがわからなくなる。もう、三時間後には一日が終わってしまう。でも、それだけ私の一日が充実しているという証拠。


 私は自分のバッグから携帯を取り出すと小林さんの携帯に電話を掛ける。メールでも良かったけど、今は少しでも早く小林さんの声を聞きたい。少しの呼び出し音の後に、耳元に感じるのは無邪気な小林さんの声。耳元で聞こえる声は低いのに意志のはっきりした声は聞いていて気持ちのいい。


 私の一番好きな人。優しくて面白くて、時折無邪気に私を翻弄する。その度に恋に慣れない私の心は簡単に飛び跳ねる。恋を知らない私が恋をしたのは無邪気に笑いいつも陽だまりみたいに暖かい人。傍にいるだけで元気に慣れそうな気がする。


『美羽ちゃん。仕事終わったの?』


『はい。終わりました。今、研究所を出たので、今から駅に行きます。まだ、食事してないですか?』


『まだしてないよ。俺も研究所の最寄駅にいるから、今から研究所に向かって歩くよ。途中で会おう』


『分かりました』


 小林さんからのメールがあって、ちょうど二十分。静岡支社と研究所は二駅ほど離れているから真っ直ぐ研究所のある駅にきてくれたのだろう。そう思うと嬉しくてつい足取りが軽くなる。


 早く小林さんに会いたい。

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