あなたと恋の始め方①
 研究所から駅まで歩いて十分ちょっと。多分、五分後には小林さんと会うことが出来るだろう。私の頭の中での計算上はそうなる。小林さんも私も仕事で疲れているから、その分を加味すると…。私の頭の中の計算は五分だった。


 私の歩く速度はそんなに遅くない。極々一般的な歩く速度だと思う。でも、少し小林さんに早く会いたいと思う気持ちもあるので、いつもよりは少し速めになるはず。小林さんは私と違って足が長いので一歩の幅が広い。だからそんなに早く歩かなくても十分歩くのは早い。


 少し肌寒くなった研究所から駅までの道を歩いていると急にドキドキしてきた。今から小林さんに会えると思うだけでこんなにもドキドキもするし、自分でも分かるくらいにウキウキもしている。頭の中の時計はストップウォッチのように秒数を刻んでいく。その度にドキドキも強くなる。


 暗闇の中、歩いていると向こうから歩いてくる男の人が見えた。それは小林さんだった。顔も見えないし、スーツ姿の男の人が私がいる方に歩いてきている姿が微かに分かるだけなのに、私の目は小林さんだと分かる。



 実際に会ったのは二分後だった。私の計算が間違っていたのか?それとも私の仕事が終わる時間を見越して駅から歩いてきていたのかもしれない。少しずつ近づく度に徐々に小林さんの輪郭を作る。


 スラッとしているのに綺麗な姿勢。周りにたくさんの人がいても、すぐにわかる。真っ直ぐ歩くその姿だけが私の心臓を飛び跳ねさせる。小林さんも私の存在を目に止めてくれたようで、私を見つけると軽く手を振り、零れんばかりの笑顔をくれたのだった。

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