あなたと恋の始め方①
「あのお願いがあるのですが」


 心臓が高鳴る。ドクドクする音が小林さんにも聞こえるんじゃないかと思うくらい。これが今の私のとって一番の勇気だと思う。小林さんは手に持っていたカップをテーブルに置くと私の方をしっかりと見つめた。


「うん。何?」


「また、私の料理を食べに来て貰えますか?頑張って作りますから」



 本当は『私のことをどう思っていますか?』と聞きたかった。でも、恥ずかしくて聞けない。それに、私も自分の気持ちを言えなかった。折戸さんのように素直に自分の気持ちを言葉に出来ればと思うけど、そうはいかない。



「今度は肉じゃががいいな。」


 そう言って笑う小林さんを見ながら幸せだと思った。私は今のままで十分幸せ。一緒に居るということの意味。ただそれだけで幸せだと思うということを教えてくれた小林さん。


 この関係を壊したくない。

 そう思った。


 小林さんはその後、折戸さんのことに殆ど触れずに会社のことだけでなく、新しく聞いた店とかテレビの話とかありふれた話をずっとしていた。そんな優しい時間は過ぎるのが早く気付いたら既に夜の十時を回っていた。ハンバーグ以外に夕方におにぎりを作ったり、お菓子を食べたりしていたらお腹は一杯になっていた。


 もう少し一緒にいたいと思う気持ちもあって…。でも、そんなことも言えなくて、それでも、小林さんが少しでも長く私の傍にいてくれることを祈った。

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