あなたと恋の始め方①
 中垣先輩は私の手から受け取ったコーヒーが冷たいのも構わずにプシュッと音を立てて、プルタブを開けるとそのまま躊躇なく口を付けた。ゴクゴクと音がしそうなほど、一気に飲みあげていく。ほぼ、一気飲みだった。飲み終えると、それをゴミ箱に入れると、すぐに仕事モードの中垣先輩に戻ってくる。休憩は今の一瞬だけだったみたい。


「じゃあ、暫くしたら呼ばれるか。今日の説明予定の研究資料は揃っている?」


「はい。余分に用意して置いてよかったです」



 今回の静岡訪問は新製品の開発の成果を見るためとなっている。元々、本社から取締役が来ることになっているのは知っていた。でも、高見主任や折戸さんまで来るとは思わなかった。折戸さんは土曜日に水曜日に来ると言っていたからとりあえず少し多めに資料を作っていた。


 準備は万全。本社営業一課ではお世話になった二人だ。少しでも成長した自分を見せたいと思う気持ちが私にもあって気合も妙に入っている。



「折戸さんは坂上さんに会いに来たのかもね」


 仕事バージョンの私に届いたのは中垣先輩の全く興味のなさそうな声だった。私が作った研究資料を捲りながら視線だけは厳しく数字をチェックしている。研究職は数値が命。でも、ごくまれにパソコンで打ち込む時に間違ったりもする。疲れているというのは言い訳にならないけど、何度も見直さないと後々困ることになる。そんな真面目な時に折戸さんのことをいうなんて…。人の恋路は全く興味を持たない人なのに…。



「仕事じゃないですか?」


「さあ、どうかな?で、坂上さんは静岡支社の小林と折戸さん。どっちが好きなの?」


「え?」

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