あなたと恋の始め方①
「別に答えなくていいよ。どちらを選んでも坂上さんが幸せになれるでしょ。さ、この資料の数値は大丈夫みたいだ。でも、呼ばれるまで時間あるから俺はもう少し研究室に入る。誰か来たら連絡して」


 そう言うと中垣先輩は私の返事も聞かずにそのまま研究室の奥にある小部屋の中に入ってしまった。この研究室には誰でも入れるけど、この奥の部屋は私と中垣先輩しか入れない。この奥の部屋の中には学会に提出する論文のための研究が行われている。今の新製品の研究の合間に新しい論文の用意もしている。


 資料に埋もれている方が中垣先輩は落ち着く。


 だから、あの部屋に入った時は無駄にドアを開けないようにしている。私はというと、資料まで作っているので何もすることはなかった。新製品の開発の準備は忙しいけど、今はそんな気分にならない。研究が一番だった私なのに、小林さんと折戸さんのことを考えると手に何も付かない。中垣先輩はどちらを選んでもというけど、小林さんはどう思っているかわからない。それに私が折戸さんとだなんて想像出来ない。


「選ぶなんて…私には勿体なさすぎる」


 恋愛というのは本当に難しい。


 ただ、傍にいるだけで幸せなのに、これ以上何か望んだら申し訳ない気がする。恋愛というのが分からないと言ったら…おかしいのかもしれないけど、『好き』の意味をきちんと理解できない私はまだまだ恋愛初心者だった。



「私も仕事をしよ」


 そして、難しいことはそのままに仕事に戻る私がいた。

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