あなたと恋の始め方①
 食後にテーブルに届けられた緑茶は香りからするとかなり上等の類だとはわかる。でも私はそれを目の前にしたまま身体が固まったようになってしまっていた。高見主任の言葉は優しさに満ちたものだった。ふと思ったのは小林さんのことだった。もしも私がフランスに行ったらどうなるのだろう?


 今のような優しい関係は終わってしまう?


 高見主任が来たのは取締役の代わりに視察というのもあるだろうけど、この交換留学の話をしに来たのではないか?本来ならば、転勤はいきなりの辞令から始まる。その前に来てくれたのは優しさは私を思ってのことだろう。でも、候補の一人に上がっているだけで私に決まったわけではない。


「まだ、私に決まったわけじゃないですよね」


「決まってないけど、最有力候補の一人なのは間違いないよ。今回の新製品の関係者はみんな候補に入っているけど、その中でも一番は中垣主任研究員と坂上さんだよ。他にも何人かいるけど、名前が挙がっている中には既婚者もいるからその場合の優先順位は落ちる」



 その言葉に愕然とする。


 新製品の開発に関わっている人は少ない。中垣先輩と私。それに別室の同じチームの四人を合わせても六人。研究所にはたくさんの研究員が居るけど、新製品以外の研究をしているものが多いから、静岡研究所の研究員が全て留学対象にならないのだという。目の前に突きつけられた現実は余りにも厳しいものだった。私がこの研究所に来たのは足りなくなった人の代わりだったけど、フランスからの交換留学となると、代わりにフランスから誰かがくるので、別に人員に問題はない。
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