モバイバル・コード
「意味が分からないよ、慶兄は転勤するの?」


「んーどうだろ。まだ転勤はしないと思うけどまた何ヶ月も海外に行くかもな。こう見えても打ち合わせ打ち合わせで忙しいんだ」


「知ってるよ、忙しい事は。頼むってどういう事? 焦らすのはやめてよ」


 慶兄はキリっとオレの方に向き直った。


 まるで……子供の相談に乗るようにやさしく語りかける。


「お前は同年代よりな、大人で無鉄砲なんだよ。大人だからアレコレ考えて、それで一番自分が、自分だけが傷つく道を選ぶ。

傷つきながらもそれが一番早い事に本能的に気づいている。それが凄いことなんだよ」


 抽象的……だ。


 なんとなく分かる気はするけど…。


「傷つく覚悟で日常を受け入れてる男だ、お前は」


 慶兄はオレにそう語りかけた。


 貧しい生活の事を例えているのだろうか。


 オレには……自分が正しいのかは分からない。


 ただ、自分に出来ることをしているだけ。


「いいか、普通の高校生はお前のような強い責任感も何もない。流されるだけ、その場の流れに乗るだけ。

やれと言われたからやる、やるなと言われたからやらない」


 慶兄の眼差しは確かにオレの瞳の奥を見透かしていた。隠すように、オレは感情を消した。
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