桜色の恋 (龍と桜とロボットと。)


外を向いていて顔は見えなかったけど。


当時の日和が、
あんなに明るい声を出したのは初めてで。


誰に言うともなく、
しいていえば桜の木に向かって
話していたような言葉だったのに。


耳に残っていた言葉だった。





「...日和が、好きだったのに」


舞い散る桜も好きだって言っていたのに。


雨で落ちた桜は、
風で舞い上がる事もないだろう。


「見たら...笑ってくれたのかな...?」




あの、夕飯作ってくれた時みたいに。

ふわりと嬉しそうに笑う、あの表情。




「クッソ...」


宏明の、絞り出したような声が
後ろから聞こえた。





 ガンッ!


何かをたたいたような音も聞こえて、
また部屋に糸が張り詰めたように
シン...となる。


窓をたたく雨の音が、
なおさら大きく感じた。
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