溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
夜のデッキは、ライトアップされていて、カップルがちらほら寄り添いながら歩いている。
プールの上に浮かぶ蛍光のパルーンハートや、手すりに蒔かれたライトが、可愛らしい雰囲気を作り出している。
そんな、ムーディーな中を、彼はデッキで、海を見ながら電話をしている。
こんな陸から離れた海の上でも、携帯が繋がっているのかと疑問だった。
でも、彼は最初から私の通訳なんて必要ないような滑らかな日本語で電話に対応していた。
後ろから近づく私に気付かないようだった。
「キミからは情熱が感じられない。本当に俺を口説きたいなら、客船に乗り込んで口説くぐらいの情熱が欲しいものだ」
ふっといつもの不敵な笑みで、笑い飛ばすかのようだ。
相手は、――誰なんだろう。
「俺は、忙しいを理由に会えなかった最愛の人に会いに行く。日本まで。キミにその情熱が感じられないんだ」
ジェイドさんがいうキミはきっと寝言で呼んだ彼女の名前だ。