溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
「ジェイドさん」
私は手を伸ばして、指を真っ直ぐ向けた。
「指輪、貴方が外してくれますか?」
ヒスイ色の指輪はもう私には重い存在でしかなかった。
「それも――明日まで付けていてくれないか?」
懇願されるように言われると、酷いと罵れなくなる。
傷付いているのは私なのに、貴方がそんな顔するなんてずるい。
「分かりました。じゃあ、背中のファスナー、降ろして貰ってもいいですか?」
片足で、洗面台を向くと、後ろ髪を片手で持ちあげた。
水を止めて、――鏡越しでジェイドさんと向かい合う。
私を好きになってくれない貴方を、鏡越しで見つめる。
ジェイドさんも私から目を離さなかった。
見つめ合ったのは、ほんの数秒にも数時間にも感じた。
「身体には、触れないでくださいね」
意地悪を言って、困らせてみたかった。
最後ぐらい、困らせたかった。
「魅力も何も感じて貰えなかったんだもの。触る価値もないもん」
馬鹿だ。自分から傷口を広げるかのような、馬鹿げた挑発。
それでも、ジェイドさんは私から視線を逸らさなかった。
可愛くない私の発言にも彼は真摯に向き合ってくれた。