溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
そう弱々しく言うしかもう、私には出来なかった。
私が貴方にした口づけの意味は、多分届かなかったけど、でもこれ以上はもう私は何も彼に伝える様な勇気がない。
完全に粉々に振られなければ、まだこの7日間が私の中で思い出になるような、気弱な思いから。
私の言葉を完全に奪った。
「ああ。――すまない」
「こんな時に謝らないでくださいよ」
惨めになるだけだから。
抱きしめられたまま、彼の胸に顔を埋める。
泣かない。
今、泣いたら色んな人に迷惑がかかる。
偽りの婚約だったとコンシャルジュたちが知った時に、私が泣いていた事で彼が不利にならないように。
私が彼に出来ることはこれぐらいしかないだろうから。
まだ、部屋のバルコニーからは花火の音や音楽が聞こえてきた。
けれど、それをかき消すかのように蛇口を捻って水を出すと、彼は甲斐甲斐しく私の足に濡れたタオルを当ててくれた。
勿論、会話はない。
さっきまでの甘い雰囲気が嘘のように。